札幌地方裁判所 平成3年(わ)159号 判決 1991年11月28日
(被告人)
氏名
橋場瀧三郎
年令
六〇歳(昭和六年二月一一日生)
本籍
札幌市中央区宮の森一条一二丁目七七三番地
住居
札幌市中央区宮の森一条一二丁目一番二六号
職業
会社役員
(検察官)
鏑木伸生
(弁護人)
私選
日浦力
主文
被告人を懲役二年及び罰金八〇〇〇万円に処する。
被告人が罰金を全額収められないときは、一日を五〇万円に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、利益を上げようとして有価証券の売買を継続的に行っていたが、所得税を免れようと考え、有価証券の売買による利益を除外して自己及び他人名義で株式等を購入するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、別紙脱税事実一覧表記載のとおり、昭和六一年度から昭和六三年度まで各年度に、札幌市中央区北七条西二五丁目の札幌西税務署の署長に対し、内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、昭和六一年から昭和六三年分までの正規の所得税額との差額三期合計三億五四八九万八二〇〇円を免れた。
(証拠)
一 被告人の公判供述
一 被告人の検察官調書三通
一 吉田信次朗、薮内昌光、高橋良子(二通)、森泰彦、森満寿美及び橋場敏子(二通)の各検察官調書
一 原徳久、田所洋二及び浜田一郎の各質問てん末書
一 吉崎純一及び柳徹也の各答申書
一 大蔵事務官の報告書九通
一 所得税確定申告書綴一冊(平成三年押第八二号の1)
(法令の適用)
罰条
別紙脱税事実一覧表の各番号の事実 所得税法二三八条(懲役と罰金を併科)
併合罪加重
懲役刑 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い別紙脱税事実一覧表の番号3の罪の刑に加重)
罰金刑 刑法四五条前段、四八条二項
労役場留置 刑法一八条
執行猶予
懲役刑 刑法二五条一項
(量刑事情)
本件は、有価証券取引による課税要件を十分認識していた被告人が、複数の証券会社を利用し、多数の他人名義を用いて株式の売買を繰り返し、自己の所得を分散させ、その捕捉を困難にし、自己の所得の隠蔽を図ったもので、巧妙かつ犯情悪質な事案であり、酌量の余地に乏しい。また、本件の脱税額は、三期合計三億五四八九万八二〇〇円もの巨額に上り、いわゆるほ脱率も、三期平均で実に九九・七パーセントと極めて高率に及んでいる。更に、被告人は、国税局の査察調査が開始された後に身内のみならず、配下の部下社員にも協力を求め、罪証隠滅工作と見られてもやむを得ない行為まで行っておること、現時点で依然として、約一億七〇〇〇万円余りの重加算税が未納付のままであることを考え併せると、被告人を実刑に処することも十分に考えられる事案である。
しかしながら、他方被告人は現在重加算税等を全額支払うべく最大限努力し、国税庁にも弁済計画書を提出していること、被告人には、これまで古い罰金前科一犯しかなく、今回の事件以前は、地道に努力を続け、業界の功労者とまで言われるようになっていることなどの被告人にとって有利に斟酌すべき事情のほか、被告人の六〇歳という年令、健康状態、被告人を実刑に処することにより、重加算税等が支払えなくなる恐れがあることなどを併せ考えると、裁判所としては、被告人を直ちに実刑に処するよりは、社会内で更生の道を取らせることが、穏当であると考え主文のとおり判決することとした。
(求刑 懲役二年及び罰金一億円)
(裁判官 山崎学)
別紙
脱税事実一覧表
<省略>